新宿歌舞伎町その1

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序幕

一同はJR新宿駅を背にし、靖国通りを横断して、歌舞伎町一番街へ

今回のフィールドワーカー紹介
仲島カルロス NAKAJIMA, Carlos(座長)
2008年から夜の建築をつぶさに観察。夜の建築を通じて、日本人の精神性を探る。野生の研究の立場から発言を続ける。映画チャンネル支配人。NPO上海情報ステーション代表。札幌市出身。
羽野暢 HANO, Toru(映画監督)
2009年の長編作品「モスリン橋の、袂に潜む」では島全体が遊郭という”夜伽ノ島”を登場させ、淫靡かつ幽玄な世界を映像化した。関西の赤線地帯や歴史的遊郭にも造詣が深い。大分市出身。
海野良太 UNNO, Ryota(現代美術作家)
2004年東京芸術大学日本画学科卒業。ニューヨークやサンパウロなど世界の大都市に滞在し、日本画の手法を用いながらも、土地土地の風俗を描いた現代絵巻は、その鋭い観察眼と精緻かつユーモラスな描写力で高い評価を得ている。静岡県出身。本画学科卒業。
関谷明洋 SEKIYA, Akihiro(アーティスト)
建築解説。建築の機能面に注目し、建築の外と中を自然なストーリーで結ぶその手腕には定評がある。

歌舞伎町一番街

海野「あんまり来ないね、このへん。」
羽野「関谷さん建築物が気になるみたいですね。」
関谷「ニューヨークっぽい。」
海野「それ俺でも言えるヤツ(笑)」
カルロス「あー、あれはニューヨークのアパートですね。このへんは飲食店などが多いですが、今日目指す夜の建築はもっと奥の方ですね。」
海野「ニーヨークっぽいに対抗して、なんか探してるんだけど見つからないね。」
カルロス「ねぇ、みんなICレコーダに声入るようにしゃべってね。」
一同「はははは」

ICレコーダを囲んで再び歩き始める

羽野「歌舞伎町って建物入れ替わってないんですかね?」
関谷「そうですね」
海野「看板にむらがありますね」
カルロス「どういう意味?」
海野「建物が新しいか古いか」

カルロス「タイル張りの建物が多いね、(ヨーロッパ風の外観を見つけて)このへんはどう?」
海野「フランスだね」
カルロス「はははは」
カルロス「ニューヨーク、フランス・・・、おっと、コマのところまで来ました。」
羽野「コマってあたらしくなるんでしたっけ?」
カルロス「たしか新しくなるんだとおも・・・」
客引き「居酒屋どうですか」
海野「客引きの方が声張れてるじゃないですか。開けてみたら客引きしか聞こえなかったりして。」
カルロス「まだ文字おこし出来る内容無いね」
羽野「なんかライオンがいますね」
カルロス「コマの工事中のところを通り抜けました。」
羽野「コーヒーショップクールに出ました。」
カルロス「コーヒーショップクールのフォントが、今はない感じだね。」
羽野「”ショップ”が小さいですね。」
海野「”クール”でかいね」
カルロス「フォントも違うね。」
羽野「一番賑わっている駅寄りよりも、建物が生き残ってる感じもありますね。最近新しい建物でこういうレンガもどきのってあんまりないじゃないですか。こういうのっていつ頃建てられたんですか?」
関谷「これでも20年(1993年築)くらい経ってるんじゃないでしょうかね。」
羽野「これってレンガじゃないですよね」
羽野「タイルですね。ま、確かに思いっきりレンガ調ってのは減ってきましたね。」
関谷「変な話、これ高いんですよ。」

一同「?」

関谷「右っかわで目地の入っているのあるじゃないですか。ああいうのは、外壁になる板があって、モルタルで張って、世の中で一番安い素材です。」
羽野「で、この右側はちょっと高い」
関谷「コンクリートで作った上にモルタル張っていちいち張ってるんですよ。関谷「鉄筋コンクリートぞうで、こっちは鉄骨造で吹きつけタイル。
カルロス「一番安い材料?」
羽野「赤煉瓦の建物の、下が柱みたいになっているのは、どういう風に出来てるんですか?」
関谷「下は石ですね。カットして付けるんです。張るって言うより引っかけるという感じかも知れません。一階は石で、それ以降はタイル・・」

(ここで客引きの男性が割り込んでくる)

客引き「あれ、なんか別の話している?」
(~中略~)
キーワード:2000円/ぼったくり/ショットバー/麻雀屋さんは仲いい/入れ替わり/不動産や/
※音声でお楽しみ下さい。

客引き「テナントさん見ていたのかな?物件を探していらっしゃったのかな?物件のことまでわからないからな」
羽野「ありがとうございました。」

閑話休題

羽野「スナック的な、ネオンとか並んでいるのも昭和的っていうか・・」
カルロス「看板が縦に並ぶ雰囲気とか」
羽野「しかも時代を感じされるのはなんででしょうね」
関谷「袖看板というのは厳密に言うと敷地超えてるんですよ。あれ、お金払うんですよ」
一同「あ、そうなんですか」
関谷「越境しているんです。はみ出している分が」
カルロス「それってどんなところでもですか?」
関谷「区によって安かったりとか、ないとかあるかもしれませんけど」
羽野「誰に払うんですか?お金?」
関谷「区ですね。区とか行政庁」

三番通りを左に入る

カルロス「これちょっとギリシャっぽい感じ?」
海野「”ITALY-YA”って書いてありますよ。イタリーヤ」
羽野「acbやって書いてますよ、柱はこれ、ギリシャですよね」
カルロス「コリント式ってことでいいんですかね、入り口のところに・・」
羽野「柱としての役割は当然果たしてないんですよね」
関谷「両サイドにあるのはコリント式で、まんなかだけ微妙にドーリア式でしょうか」
カルロス「コリント式ですね。(上部にあるレリーフを指して)これは女神ですか・・・」
海野「ラブホテルですよね(笑)」
カルロス「あのレリーフの感じは・・」
羽野「デザイン的に」
海野「甘いですね(キッパリ)」
一同(笑い)
羽野「どの辺が甘いですか」
海野「十九、二十才くらいのときあれくらいできましたね」
カルロス「ああいうのは誰が作ってるの実際は」
海野「あー、造形屋さんとか」
関谷「看板屋さんとか」
海野「看板屋さんというとクオリティ高く感じるな。ペンキぬってるイメージだから」
カルロス「ああいうのは建築に入ってくるの?」
関谷「微妙ですよね。看板だと越境しても良いけど、建築だとダメなんですよ。」
海野「建築物だと出ちゃダメなんだ」
関谷「人んち出ちゃいけないのと一緒で」
羽野「じゃあの出っ張りとかはだめなんですか?」
関谷「それは微妙なところがあって、
海野「(横から確かめに行って)「胸が一番出てる」
一同「胸?」
海野「今横から見たら胸が一番出てた」
カルロス「胸がはみ出しているなら、その分だけ」
海野「お金払ってるんだね」
カルロス「ありうるね」
海野「ここに名前書いちゃったらもう看板扱いだよ」
カルロス「ギリシャものがきましたね。さっそく」

ローマで天然果汁

カルロス「さて、ここの角っこの店は・・・」
関谷「マルス」
カルロス「”天然果汁ヲ作ル店”となっていますね。なんかエロティックな標語に見えてきました」
関谷「マルスってギリシャつながりですね」
カルロス「マルス!ギリシャ−ローマと来ましたね。建築的にはどうですか」
羽野「書き方がいいですね。こっちのヲですもんね。建物も凝ってますね。ガラスですか?素材は」
関谷「外壁も凝ってますよ。ぼこぼこしてますよね。ちょっと加工してますよ。」
羽野「角を入り口にするのは最近あんまり無くないですか?昔の銀行とか、清澄白河のちょんの間みたいなところもこんな角から入るところでしたね。」
海野「ああいう土地を買ったの?」
関谷「もともとこういう土地だったのかな。もともと四角かった土地だけど、新しく建てるにあたって道路を広げることもありますよ」
羽野「この鉢は大丈夫ですか?」
関谷「鉢は・・・」
海野「これダメでしょ」
カルロス「新宿らしくないね。下町っぽいというか」
関谷「谷中っぽい」
海野「雑さは新宿っぽいですけど。発泡スチロールの壊れ方が。酔っぱらいにやられてますね」
カルロス「植木の植物でも無い感じだね」
海野「ちがうちがう(笑)」
「えっそうなんですか?」〜メインディッシュ
カルロス「さてバッティングセンターを横に三番通りを歩いてくると、白い看板が目立つようになりました。」
一同「あっ」
羽野「出ましたね。」
カルロス「これが僕たちが夜の建築と呼ぶ代表格の・・」
羽野「メインディッシュですね」
海野「たしかにここから出てきたら可愛く見えますね」
カルロス「まず、正面に空間を作って、そこに階段を配置するというスタイルみたいなものはあるんですか?夜の建築を代表する形だと思っているんですが」
関谷「これは・・・、法律で一番効率が良くてこう建てるんですよ。
カルロス「えっそうなんですか。」
関谷「割に。実は。これ資料持ってきたんで後で説明します」
カルロス「僕等はこれを夜の建築の代表として挙げているんです。まずエントランスに空間と階段。」
羽野「また全般にR(アール)がある感じで、細工にクラシックな感じのものがついていたり、手すりの装飾があって、また大理石をつかったりする」
関谷「上が格子状になっる意じゃないですか、スケスケになっているの。あのスケスケにも理由があるんです。そうじゃないといけない理由が」
カルロス「えー、じゃいろんな建築的な理由からこの形が生まれてきているんですか。いろんな制約から」
関谷「これは外部避難階段というものなんです。」
海野「スケスケが?」
関谷「外部って言うためにはスケスケじゃないといけないんです」
海野「つけなきゃいけないんだ、避難階段を」
羽野「それをデザイン的に・・」
関谷「そう、使っちゃったと言うことです」
カルロス「そういった要請があるっていうことは考えてなかったな」
羽野「だからそういうのが増えてきたということもあるんですかね」
海野「ソープランド」
カルロス「ソープランドですね」
羽野「7000円というのは相場的にどうなんですか?」
海野「安いですね(キッパリ)」
カルロス「(三メートル大の”く”の字型の金属のレリーフをみつけ)この建物のレリーフ格好いいですね。翼のような」
海野「古い感じするなぁ。あれは古いでしょ(笑)」
カルロス「やはり時代の記憶がとどめられているような感じがしますかね」
海野「バルコニーの柵も」
カルロス「あーS字の鉄の棒が縦に配置してある・・
海野「シンガポールみたいな」
カルロス「あの窓の・・
海野「シンガポールあんな感じですよ」
カルロス「出入り口、いやバルコニーみたいな感じですかね・・
海野「”シンガポール”って全然食いついてくれないじゃないですかっ!」
一同「はははは」
カルロス「アート的にはどうですか、古い感じ出てるんですか?」
海野「昭和・・・、明・・」
カルロス「明は無いでしょ、明治は。なに、フランスからやって来たみたいなかんじ?」
海野「そうですね。南のほうから。南フランス」
カルロス「あ、南フランス」
海野「そう。なんか意識しちゃってるのが古い」
羽野「意識する時代があったんですか」
海野「あったね。」
羽野「それはいつごろ・・」
海野「昭和・・明・・・」
羽野「明治ですか」
海野「ぐいぐいきますね、そこ」
羽野「K会館に来ました」
カルロス「またギリシャ的なイメージですか」
関谷「教会っぽいところもありますね」
カルロス「ゴシック的な感じもありますか」
関谷「そうですね」
羽野「実際は”AK”会館みたいですね。Aがはずれてます」
羽野「この蔦は意図的ですか?」
関谷「これはこっち側の建物無くなっただけでしょう。見える側にはお金かけるけど、隣の建物無くなったらダクトとかも丸見えでちょっと恥ずかしいみたいな。」
カルロス「建物前面が4階部分まで柱とガラス張りで作られた建物でした。」

つづく

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